離別の痛みさえ、君を失うことへの恐怖に比べれば何でもないことのように思えたのです

罪にまみれたこの両手で、抱きしめることなど出来そうになかった

狂気じみた初恋の行方など、共に堕ちるか独り堕ちるか、それだけの違いしかなかったのに

嗚呼、まるであの日僕の腕をすり抜けた貴方のようではないか

冷たく凍てついた湖の底で、春を待つふりをして眠りましょう




泣くという行為が感情を押し流してくれたなら或いはよかったのかもしれない

掻き抱く幻想、降り積もる帰心、この場所だけはどうかあの日のままでと願った愚かな自分

紡がれてゆく未来に貴方の姿があったならば、ただそれだけで幸福でいられたのに

その胸にすがりついて涙を流すことさえ赦されないように思えてならなかったのです

君はきっと泣いていた、僕はただ見てみぬふりをしていたけれど




貴方を真っ直ぐに愛してあげられなかった私を、許してなんて言わないから

ありがとう、ごめんなさい、さよなら。こんな安っぽい言葉しか残せない僕だけど、誰より君を愛してた

真実と現実の隙間を埋める唯一つの口実

お生憎様、偶像崇拝なんて馬鹿げた真似は趣味じゃないのよ

背を撫でる風に翼をもがれたとしても、そうしていつの日か飛び方を忘れたとしても




優しさを食らい尽くしたその口で、愛しさと切なさを叫ぶのならば

穿たれた白銀の月影にかつての幻想が浮かんでは消えていった

欲しがるばかりで戦わぬのならこの舞台に上がる資格などありはしない

この世界のすべてのものを愛し続けることはとても難しいけれど

僕が幸せである為に、僕の大切な人が幸せでありますように




世界中の人たちが君を憎んでいたとしても、すべての災厄が君に降り注いだとしても

愛される為に生まれた僕等はきっと、愛する為に生きていく

甘やかに満ちてゆく世界の中で、繋がれた指先に幸せは宿るのだろう

さよならよりも愛してると伝えたい、ごめんねよりもありがとうと伝えたい

できるならば憎しみよりも愛しさでこの世界を満たしたいと思うのです




さあ剣を置いて、その両腕は戦うためでなく誰かを抱き締めるためにあるのでしょう?

静謐な棺の中で伝え忘れた置き去りの愛をそっと囁いてみたけれど、到底届く筈もないと嘲笑うようにどこか遠くで鴉が鳴いた

其れはいつか必ず訪れて幸せも不幸せも愛も憎しみも喜びも哀しみも全部全部奪い去って変わりに穏やかな眠りだけをくれるのだ

ささやかでちっぽけでくだらなくてそれでも大切に掻き抱いて護っていた筈なのに、どうしてそれはいつも僕の腕をすり抜けていってしまうのだろう

貴方との幸せはいつだって薄氷の上を渡るように儚くて優しくて、いつか迎える終わりの時でさえ美しいのだろうと思えてならなかったのです




過ぎ去った日々だけがただ恋しくてしょうがないのだと泣き喚いてみても美しい思い出は陽炎の如く儚く揺らいでは薄れていった

偽りの愛などいらなかった、仮初めの幸せなどいらなかった、ただ貴方と2人で笑い合える日がくればいいと祈り続けた

冷たくなってゆく掌に悲しみは感じなかった、ただ降り積もる雪が僕らを覆い隠してまだ遠い春の訪れまで静かに眠らせてくれたならそれでいいと思った

拝啓愛しき人へ、さよならさえ言えなかった私をどうか怨んで下さい、そして季節が一巡りしたならばすべて忘れて幸せになって下さい

満ち足りたことなど一度もなかった、なんて言ったら君は笑うだろうか




永遠なんて信じていない君が変わらぬ愛を誓うその姿が僕にはひどく眩しく滑稽に見えた

願わくばこの醜い世界がせめて美しい終焉を迎えますように

さよならマイリトルラバー、君は最後まで気高く残酷だった

きみは静かに笑い、そうしてまた毒を孕んだ指先でわたしの頬をそっと撫でるのだ

揺らいで沈んだ海の底に貴方の求めていた理想郷がありました

突き放したイデアが砕け散るそのときをずっと待っていたの





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